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大阪地方裁判所 昭和49年(わ)2314号 判決

一、本店所在地

泉大津市旭町二二番五〇号

商号

道正田毛織株式会社

代表者氏名

道正田清

二、本籍

泉大津東港町五八番地

住居

同市池浦町二五〇番地の一

職業

道正田毛織株式会社代表取締役

氏名

道正田清

大正二年二月六日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき当裁判所は検察官藤村輝子出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人道正田毛織株式会社を罰金八五〇万円に、被告人道正田清を懲役八月に各処する。

被告人道正田清に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人道正田毛織株式会社は、泉大津市旭町二二番五〇号に本店をおき、毛布の製造並びに販売業を営むもの、被告人道正田清は、同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人道正田清は同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、

第一、被告人道正田毛織株式会社の昭和四五年九月一日から同四六年八月三一日までの事業年度において、その所得金額が二八、二二〇、五四九円で、これに対する法人税額が一〇、〇八二、二〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上架空の仕入を計上して、これによつて得た資金を架空名義の金銭信託を設定するなどの行為により、右所得金額中二五、一六八、九八三円を秘匿したうえ、同四六年一〇月二八日泉大津市三田町一丁目一五番地の二七所在泉大津税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三、〇五一、五六六円で、これに対する法人税額が八一二、六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税九、二四九、六〇〇円を免れ、

第二、被告人道正田毛織株式会社の同四六年九月一日から同四七年八月三一日までの事業年度において、その所得金額が三三、二九二、〇九〇円で、これに対する法人税額が一一、九四〇、九〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中二七、六九六、七一六円を秘匿したうえ、同四七年一〇月三〇日前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が五、五九五、三七四円で、これに対する法人税額が一、七六二、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税一〇、一七八、七〇〇円を免れ、

第三、被告人道正田毛織株式会社の同四七年九月一日から同四八年八月三一日までの事業年度において、その所得金額が四六、〇三五、二〇三円で、これに対する法人税額が一六、四五五、七〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額中三六、九九四、〇二五円を秘匿したうえ、同四八年一〇月二五日前記泉大津税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が九、〇四一、一七八円で、これに対する法人税額が二、八七八、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により法人税一三、五七七、〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につ

一、被告人道正田毛織株式会社(以下単に被告会社と称する。)代表者兼被告人道正田清の当公判廷における供述

一、被告人道正田清の検察官に対する供述調書

一、同被告人の収税官吏に対する質問てん末書二四通

一、橋本楠之助、山中峰子の収税官吏に対する質問てん末書各二通

一、収税官吏田川昇、同丸尾真二各作成の現金預金有価証券等現在高検査てん末書二通

一、大和銀行本店営業部副長伊藤源太(二通)、寺嶋宗孝、大和銀行船場支店支店長西原利兵太各作成の各確認書

一、大和銀行守口支店小林輝子作成の供述書

一、大和銀行泉大津支店池平馨作成の文書送付書(特別定期預金者解約預金利息明細表(仮名分)一通、道正田毛織(株)解約信託収益金明細表(仮名分)一通添付)

一、収税官吏芦田修作成の査察官調査書(調査事項仮名普通預金元帳に関する分と不明入出金解明内訳表に関する分)二通

一、収税官吏高野潔作成の査察官調査書(調査事項信託預金元帳に関する分と税率修正による受取収益金、仮払税金の計算に関する分)二通

判示第一の事実につき

一、泉大津税務署長作成の証明書(被告会社の昭和四六年一〇月二八日税務署長に申告した法人税申告書に関する分)

一、大和銀行難波支店長斉藤栄作成の確認書

一、大和銀行佐野支店峯淳教作成の供述書

判示第一、第二の各事実につき

一、収税官吏秋山益行作成の査察官調査書(調査事項簿外貸付金残高明細表 関する分)

判示第二の事実につき

一、泉大津税務署長作成の証明書(被告会社の昭和四七年一〇月三〇日税務署長に申告した法人税申告書に関する分)

判示第二、第三の各事実につき

一、収税官吏秋山益行作成の査察官調査書(調査事項未納事業税に関する分)

判示第三の事実につき

一、泉大津税務署長作成の証明書(被告会社の昭和四八年一〇月二五日税務署長に申告した法人税申告書に関する分)

一、大和銀行泉大津支店池平馨作成の供述書

一、高木証券株式会社第二営業部長西平兵衛、同会社北浜営業所長古川智三、大阪屋証券株式会社堺支店長高橋良平(二通)各作成の各確認書

(被告会社代表者兼被告人道正田清の弁解ならびに弁護人の主張に対する判断)

1. 被告会社代表者兼被告人道正田清ならびに弁護人は、本件売上除外について犯意(逋脱の意思)を否認するが、被告人道正田清の検察官に対する供述調査書ならびに同人の収税官吏に対する各質問てん末書及び山中輝子の収税官吏に対する各質問てん末書によれば右山中は右被告人の指示に基づいて一部現金売上分除外し、売上金を圧縮して出納簿に記載したうえ、除外分である差額現金を社長室の机の中に入れておいたことが認められ、この事実から見ても右被告人に犯意のあつたことは明らかである。

2. 次に弁護人は、本件信託収益金は逋脱行為から生じたものでないから犯則所得を構成しない。又信託収益金については逋脱の故意がない。更に対象事業年度前に設定済信託金から生じた収益金は、本件逋脱行為とは因果関係がない。と主張するので検討するに、法規上内国法人には源泉分離課税の選択が出来ないこと明らかであり、総合課税の税率に修正されたため生じた過納税額は仮払金として処理されているから、簿外金銭信託の収益金についてもなんら問題とすべき点はない。なお個人として分離課税の分を納付していたとしても、これは他人名義の申告であつて、被告会社の納税義務を確定させる効果はなく、かかる申告納税そのものが不正行為であるから本件逋脱所得から控除すべきではないし、被告会社の逋脱の意思も又当然認められるところである。そして逋脱所得額に金銭信託収益金が加算されていることは、右金銭信託がいずれも被告会社に帰属することが明らかな分であるところ、その信託が被告会社のものである以上、これから発生する収益金が被告会社の所得を構成することは当然かつ明白である。そして前掲被告人道正田清の検察官に対する供述調書ならびに収税官吏に対する各質問てん末書によれば、金銭信託のうち本件の被告会社に帰属しているものとされる金銭信託は、昭和四六年八月期より昭和四八年八月期までの三期間(本件公訴の対象たる三事業年度中)は出し入れしていないことが認められるから、金銭信託の被告会社への帰属は明らかであり、その収益金については当該年度中の発生が明らかであるものを逋脱所得中に含めたもので、簿外の信託金との認識も充分であるし、信託収益金は利子所得を構成し、これを脱漏があれば修正して計上すべきであることも又当然であるというべきである。この点に関する弁護人の主張は理由なく採用できないところである。

(法令の適用)

被告人らの判示各所為はいずれも法人税法一五九条、七四条一項二号(法人の処罰につき、なお同法一六四条一項)に各該当するところ、被告会社については以上の罪は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金八五〇万円に処し被告人道正田清については所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上の罪は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした所定刑期の範囲内で同被告人を懲役八月に処し、同被告人に対しては諸般の情状に鑑み、同法二五条一項一号を適用して、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本達彦)

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